国内・海外で年々注目が加速している金継ぎ。
金継ぎとは、割れたり、欠けたり、ヒビが入った器を、漆(うるし)と呼ばれる漆の木の樹液を加工した塗料を用いて修復し、最後に金などのお粉でかわいらしく仕上げる日本の伝統技法です。大量生産・大量消費の今も受け継がれる、モノを大切にする日本の素晴らしい文化だと思います。
この金継ぎを職業にされている日本中の職人さん(通称:「金継ぎスト」と呼んでいます)にインタビューをしました。金継ぎを始めたきっかけや、その想いを伺う中、それぞれの金継ぎストの人生に触れることができ、発見の宝庫でした!
今回の金継ぎスト:漆器工房ぬしや 八木 茂樹さん
石川県で金継ぎを専門に修理・教室などで活動されている八木 茂樹さんが、快くインタビューをお引き受けくださいました。山中温泉街から近い工房で、八木さんから学んだことを、私見を織り交ぜながらまとめさせていただきました。
漆器工房ぬしや 八木 https://www.kintunagi.com
〒922-0103 石川県加賀市山中温泉長谷田町リ313-2
電話/FAX 0761-78-0252
携帯 080-1956-1983
金継ぎストインタビュー
金継ぎの世界に足を踏み入れられたきっかけ
代々漆塗りのお仕事をされているご家系で、小さな頃から漆が身近にあったそうです。現在、ご両親が漆の塗りを、茂樹さんは金継ぎをご担当されています。
16年くらい前、今ほど金継ぎは流行っていませんでしたが、山中は九谷焼の産地で、加賀温泉郷でたくさんの温泉地と旅館があり、地元の焼き物が多く使われていました。しかし旅館にとって、いいお値段がするお皿が少しでも欠けてしまったたら使えなくなるため、高いお皿を買いたくないと思ってしまうところを、修理ができることが分かると上手くサイクルが回るのではないかと、当時の茂樹さんは考えられたそうです。安心して良い地元の名産が買えるようになればと思い、自然な流れとして金継ぎを始められたそうです。例えばすごく高い靴・鞄・洋服があって、直せないとなると、私達も買うのを躊躇しますよね。壊れても直ることがちょっと安心感で、買おうかな、という気持ちになるのではないでしょうか。
金継ぎ依頼について
石川県でご活動されているため、ホームページを見てのご依頼と郵送が多いそうです。またテレビで取り上げられると、多くの電話をいただくそうです。たくさんのお写真と、詳しい説明が載ったホームページはご自身で作られ、お客様が金額や仕上がりなどをイメージしやすいように工夫をされています。
ご依頼は関東からが多いそうですが、日本全国の方にホームページをご覧いただいているおかげで、全国各地から受けているそうです。また日本語が読める方ならどこからでもご依頼が可能なので、海外に住む日本人からのご依頼もあるそうです。
お客様からはご依頼の際、商品に対する思い入れをたくさん書いてこられるようです。修理者としてはサイズや割れ具合も詳細に聞きたいところですが、思い出7割、状況3割…といったところが、人々のモノに対する愛着と思い入れが本当に伝わってきます。またリピーターの方も多いそうです。
金継ぎは修理にお時間がかかるため、1か月以上かかるとご不安で途中経過について知りたいとご連絡をいただくそうです。その心配を減らすため、インスタグラムで途中経過の写真を載せてご報告されているそうです。(掲載不可の方を除く)
金継ぎ作業について
塩分と油がついていると、漆はその部分だけ非常に乾きにくくなるそうです(みなさん、修理に出す前に、醤油汚れに注意してください!)その場合、作業に入る前に、中性洗剤でブラシなどを使い、しっかり洗って汚れをとらなければなりません。また面白い事例として、割れた器にご飯粒がついたまま送られてきたことがあるそうです。さらには、納豆がついたままだったこともあるそうで…人々の日常が垣間見れるようですね。
金継ぎ修理の需要
正確な数は分からないですが、月70-100件くらいはご依頼があるそうです。もちろん1件の中には数個ご依頼されることもあるので、どれだけ修理されているかは想像を絶するのではないでしょうか…。お料理屋さんからのご依頼では、まとめてお持ち込みされたり、1回に大量にご依頼されることもあるようです。
大きい机でご依頼の品全部並べていらっしゃるのは、集中力を保つためもあるそうです。同じ作業ばかりするのではなく、ガラスの修理をされたり、別の陶器を接着したり…と、いろいろな作業を混ぜて、気分転換の工夫をされているそうです。また大切な商品のご依頼主が分かるように、シールを貼ったり伝票を商品に入れて管理されていました。
分業
金継ぎの上から美しい文様を描く「蒔絵直し」をご依頼されることもあるそうです。その蒔絵は、専門の蒔絵師の方にご依頼されているそうです。さらに、山中市は漆の産地なので漆の道具も手に入りやすく、フタのなくなった部分や、つまみの部分だけない時は木を削ってきれいに復元されたりもするそうです。漆器は木から作られていますが、山中ではその技術は確立されており(山中漆器が有名)、そういった技術の良いところを少しずつとって、金継ぎ修理を行っているそうです。いろんな専門家とコラボレーションできる山中という環境で、金継ぎという枠を超えた修理を提供できるそうです。
山中で金継ぎをされている方は、八木さん以外にそれほどいらっしゃらないようです。漆器の産地でもあり九谷焼の産地でもあるこの土地では、ガラスもあり(ワイングラスの足を作ることもできます!)パーツを作ってくれる専門家もいて、金継ぎだけではなく、器を全部直せるそうです。日本全国でこんな最強の場所はないですよね。
漆を取り巻く環境
残念ながら漆器の産業は年々縮小してきています。漆は天然素材のため、漆器の生産には他の製品よりも比べ物にならないほど多いサプライチェーンがあり、たくさんの人が関わっています。ですので漆の産業は今危機に面しているかもしれません。
また、日本産と中国産の漆違いを教えていただきました。日本産漆は小木という木の一種類の漆樹液が取れ、中国産は小木、大木の二種類の漆樹液が取れます。どちらが良い、悪いではなく漆樹液の種類が多ければ用途により漆を使い分けることができます。八木さんの感覚では、日本産の漆は比較的さらさらで、中国産はゴム質が多い印象だそうです。
金継ぎの未来
器が割れたり欠けたりしたとき、これまで「買うか捨てるか」の2択でしたが、そこに「直す」という選択肢が入ればいいな、と思っていらっしゃるそうです。今でこそ密かなブームになっていますが、まだまだ金継ぎのことを知らない人の方が多いと思います。八木さんが金継ぎを始められた頃は、一般の方は金継ぎを全く知らない時代でした。山中は漆の地域なので、全国に比べると金継ぎを知ってる人多いかもしれませんが、そこから八木さんが地道に伝えていかれて、「直せます?」というご質問から、「ガラスもできます?」といった感じで、幅が広がっていったそうです。現在、金継ぎで陶磁器は直せると思っていても、ガラスを直せると知らない方が多く、できると知って驚かれることが多いそうです。
金継ぎの手法
金継ぎの手法はもともと、漆器の技術の工程を組み合わせたものだそうです(下地の作業や、金を撒く作業など)。現在は金継ぎブームで本が出ているので、「金継ぎ」という分野があるのかと思っている方もいらっしゃるかと思いますが、金継ぎという特別な工程はないのだそうです。そして、金継ぎを突き詰めていくと、最後には道具にたどり着くそうです。そのため、八木さんや多くの職人さんは、自分で道具から作っていらっしゃるそうです。
海外からの需要
外国人を対象にした金継ぎ教室は今とても人気だそうです。海外からの観光客が山中温泉街の旅館などに泊まって、1週間ぬしやで金継ぎを習い、海外に戻って再び金継ぎをされる方もいらっしゃるそうです。
八木さんは、器が壊れてかけらがなくなった時に、そのかけらを作るのが得意だそうです。Facebookで器の欠けを埋める錆漆(さびうるし)のことを載せたところ、外国の方から大きな反響があり、是非作り方を教えてほしいとコメントがあったそうです。金継ぎは海外でとても注目を浴びているのですね。
最後に
漆産業で名高い石川県で、日本全国から金継ぎのご依頼を受けていらっしゃる八木茂樹さん。山中温泉でまったりしながら、金継ぎを習って、身も心を癒されるのは最高の贅沢ではないでしょうか。私も秘伝の(?)錆漆の配合を、惜しげもなく教えていただきました。これからも日本全国の壊れた器を美しく修復され、より一層ご活躍になられることを応援しております!
金継ぎ職人さん(=金継ぎスト)紹介記事のまとめ