今年2021年は、2020年から始まったコロナ感染症の拡大が続きで翻弄され、今まで以上に環境が変化した激動の1年だったのではないでしょうか。
そんな真っ只中に、金継ぎをやりたい一心で金継ぎの会社を作ってしまったYukiですが、忙しすぎて(そしてコロナ感染症を避ける意味でも)2年くらい映画館に行けていませんでした。
ところがあるきっかけがあり、本日久しぶりに映画を見てきました!
その映画の名は「金の糸(Golden Thread)」。ジョージアという国の91歳の女性監督の作品です。
2021年11月末のある日、私宛に一枚の招待ハガキが届き、これが「金の糸」の試写会の案内状だったのです。(後日、仲の良い他県の金継ぎ師さんの元にも招待ハガキが届いたと聞きました!)
こちらのブログで「金の糸」試写会の案内が届いたときのことを書いています:https://kintsugi-girl.com/8935/
東京のとある試写室で、2021年12-2022年1月にメディア・関係者のみに行われている先行上映だったので、こんな貴重な機会(そして金継ぎ関係!)さっそく見てきました!
一度映画の世界に入ってしまうと、うるうるしてしまいました。金継ぎを知っている人にも、知らない人にも、おすすめの内容でしたので、参考になればと思い、ネタバレしないよう気をつけながら感想を書きたいと思います!
映画「金の糸」を見る前にジョージアの時代背景を知っておいた方がいい
楽しみにしていたのに超ギリギリに到着してしまい、ダッシュで着席して始まったのですが、見ている最中に「このころのジョージアの時代背景を知っておけば良かったな」と思いました(汗)
そこで、このブログをお読みくださっている皆様には、後悔のないよう、簡単に「金の糸」で描かれているジョージアの時代背景をお伝えします!
ジョージアは昔「グルジア」という名前でした。首都はトビリシ。場所はトルコとロシアの間にあり、黒海にも面しています。面積は北海道の約80%、人口は約370万人(静岡県の人口くらい!)で、ジョージア人を中心に多様な民族が暮らし、主な宗教はジョージア正教だそうです。
東西交易の要所(ヨーロッパとアジアを結ぶ場所)であるため、周辺の国々から度重なる侵略を受けてきましたが、今まで独自の言語と文化を守り通してきたそうです!ジョージア語って、まるまるしててカワイイんですよね(○´ω`○)
ოქროს ძაფი
(↑金の糸(Golden Thread)のジョージア語)
ロシア帝国の支配から1918年に独立し、1921年から70年間、ソ連に組み込まれていましたが、1991年に独立を回復します。しかし、内戦や周辺国の紛争が激化し、ジョージア国内も混乱の時代でした。こんな時代ですからこの頃に作られた映画は傷つき、1000以上の作品が上映不能になったそうです。
現在は状況は改善されてきているそうです。そして、実はワイン発祥の地でもあるので、世界から多くの観光客が訪れ、映画などの文化・芸術も復活してきています。「ジョージア映画祭」は有名で、名前を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか^^
映画「金の糸」を作った91歳女性監督の過去がスゴイ
監督と脚本は、ラナ・ゴゴベリゼ(Lana Gogoberidze)さんによるもの。91歳にして新作というのがすごいですが、ジョージアを代表する映画監督の一人で、自身もソビエトの検閲と戦いながら生きてこられたそうです。
この映画の主人公と監督の人生は共通することがあり、まるで監督が主人公になって、過去を内省している様子がストーリーとなっているように思いました。
監督が幼い頃、母親が10年厳寒の地に流刑になり、父親はスターリンの大静粛で処刑されるという、大変痛々しい過去。これは監督自身に起きた本当の出来事ことなんですよね…。
そして気づいたら自分自身も、母親と同じく映画の作り手になっていたというなんと不思議な運命でしょうか。
金継ぎが映画「金の糸」にどう関係しているか?
この映画はもともと別のタイトルで製作されていましたが、製作途中に「金の糸」に変更になったそうです!なんと、映画製作の途中で監督が日本の伝統的な陶器の修復技術「金継ぎ」を知り、金継ぎの精神をこの映画のメッセージのメタファーとして伝えたいという思いがあったからだそうです。
とはいえ、金継ぎの一部始終の工程が映画の中に出てくるわけではありません。あくまでその精神・哲学が、映画で伝えたいことの真髄を捉えているという感じです。あんまり出てこないのが逆にいいと思いました。金継ぎ自体も、本当はすごく控えめな技法だと私は思っているので(*´ω`*)
(えっ、傷を金で目立たせるアートでしょ?と思われている皆様!「金継ぎは器より前に出ないのが美しい」という私の考え方・精神を過去のブログのどこかで書いております^^)
ちなみに漆を使った伝統金継ぎと合成接着剤の簡易金継ぎの間で小さな論争がありますが、この映画には全く関係ない次元の話になると思います(知らない人はスルーしてください)。あくまで金継ぎの概念を表した映画です。
「日本人が数世紀も前に壊れた器を金で継ぎ合わせるように、金の糸で過去を継ぎ合わせるならば、過去は、そのもっとも痛ましいものでさえ、重荷になるだけでなく、財産にもなることでしょう」
(↑映画「金の糸」より)
「金の糸」からの学び:過去にとらわれる者と、乗り越えていく者
この映画のテーマは「人と過去との関係」だそうです。
映画では主に3人の登場人物を結ぶ過去が語られますが、私自身は過去に執着し前に進めない者なのか、それとも金継ぎのように過去をそれとして捉えてより強く輝けるのか、今は前進できるタイプでも自分が90歳になったときにどうなっているかな?と問いかけることができました。
37歳の若輩者にして、死ぬとき・死が近くなったときの生き方や自分の周りについて、想いを巡らしてしまいました。
考えても仕方がない未来かもしれませんが、今の生き方次第で、その未来はもっと楽しいものにもなる(し、孤独なものにもなる?)と思いました。私たちは今、この瞬間の行動しか変えられないので、じゃあ今からどうするか?
映画「金の糸」を見た金継ぎ師Yukiの感想
最初はジョージアの世界感が今自分が生きている世界と違いすぎて戸惑いましたが、ひとたび映画の世界に入っていくと、主人公の感情の移り変わりにすっかり引き込まれ、その人間模様に自分を重ね合わせることができました。何が正解というのはないけれど、最後には主人公に共感し、むしろ心地よいというか、そんなふうに考えられたらいいなと。狭い視野でただただまっしぐらな今の自分を、もう一度立ち止まって見つめ直す気持ちになれました。
私が仕事を引退して、自分の家族も、友人もほとんどが死んでしまって一人ぼっちになった時、自分に何が残っているかな。その時はその時で生きがいや楽しみを見つけていくことができるのかな?
映画が終わった後、密かにエンドロールで、”この映画は「A Phone Romance」という本(?)を元にしています”、という字幕を見ました。電話のロマンス。どこの誰とでも繋がることができる現代。私がおばあちゃんになってもまた恋ができたり、昔の恋をもう一度懐かしむことができるかな?笑
これまでもだけど、これからもとっても辛いことが待ちうけていると思うけれど、私もいつか過去と和解できる日が来るかな?
実はこれらの内省、映画を見た後に配給会社の方とお話ししていて「あっ、こういう意味だったんだ!」と後で分かったものです。映画を見ている時は、なんだかその雰囲気にひたりながら、どういう意図なんだろう?ともやもやしていたんですが、パンフレットを読んだり時代背景や監督の過去を知って、やっと解釈できたんです^^
今後の上映について
海外では2019年に公開されているようですが、日本では2022年2月26日(土)にロードショーだそうです!
場所は東京では岩波ホールという、神保町駅近くで、1日4回くらい公開されるようです。
金継ぎと同じく、ちょっとした非日常を味わいたい方、映画「金の糸」が、本当にあった異世界へ連れて行ってくれるはずです!(一応フィクションです)
ちなみにネットで「金の糸」というワードだけで検索すると、顔のシワを引っ張る金の糸についてがたくさん出てきちゃうので、「映画 金の糸」で検索しましょう♪笑